小林敏明教授の「ライプツィヒの街から73 金子由香利「再会」との再会、またはノスタルジーのススメ

こんばんわ!モンです

 

ドイツの小林教授からノスタルジーでセンチメンタルでメランコリックなレポート

お届けです

 

教授、秋の気分本日もよろしくお願いいたします

 

 


 先日暇にまかせてネットをブラブラ検索していると、なぜか突然不意打ちのようにして「カネコユカリ」という名前が浮かび上がってきました。じつに何十年ぶりかで、この名前と「再会」したことになります。

 ちょっと年配の人でないとわからないかもしれませんが、「カネコユカリ」とはシャンソン歌手の「金子由香利」さんのこと。当時私はあちこち飛び回って公私ともに無茶苦茶多忙な毎日を送っていました。気分転換はおもに同僚や友達と飲み歩くことでしたが、それにも疲れて本当に一人静かに休みたいときは、部屋に閉じこもってよくお気に入りのアルバムを出してきて歌謡曲やジャズなどを聴いていました。

 

 私が当時繰り返し聴いていたアルバムで、よく憶えているのは加藤登紀子「日本哀歌集」や内藤やす子「すきま風」でしたが、その他ではトム・ジョーンズやカーペンターズのアルバムなどもよく聴いてました。以前にも書いたことがありますが、桂銀淑や欧陽菲菲もファンでした。金子由香利はそのうちのひとりです。彼女はおそらく戦後日本でも屈指のシャンソン歌手でしょう、歌と語りの間をいく彼女独特の歌い方に惹かれたファンも少なくなかったと思います。

 

 抽象的にほめていても仕方がないので、ひとつ彼女の代表作を挙げておきます。「再会」というとてもおシャレでロマンチックな曲があります。元歌はニコレッタという歌手が歌っていた「Je N'Pourrai jamais T'oublier 」という曲ですが、金子さんはこれを語りかけるような調子で歌い、聴いてるだけでもちょっとした映画の一シーンを観るような気分にさせてくれます。伴奏のピアノも軽快でありながら、それでいてセンチメンタルに響く名曲に編曲されています。翻訳された歌詞はこんな感じです。

 

あら! ボンジュール 久し振りね
その後 お変りなくて
あれから どれくらいかしら
あなたは 元気そうね
私は 変ったでしょう?
あれから旅をしたわ
いろんな国を見て来たの
少しは 大人になったわ
私って おしゃべりね
引き止めて ごめんなさい
あんまり 懐かしくて 声を掛けたのよ……

 

これは道でたまたま昔の恋人に出会った女性がその男に声をかけて、切ない感情をさりげなく吐露するという内容の歌ですが、金子さんが歌うと、まるで自分がその場に居合わせたかのような気分にさせられるのです。人間しばらく生きていると、女の立場であれ男の立場であれ、だれにもこんな経験の一つや二つを持っているもので、つい引き込まれてしまいます。ウソだと思った方はYouTubeにアップされてますから、一度聴いてみてください。

https://youtu.be/Q_nfUefLUS0

(いろいろな録音がアップされてますが、このサイトが一番良いように思います)

 

 なぜ、私はこんな話を始めたのか。それは秋だから、です。「感傷の秋」と言いますが、この季節はセロトニンが減少して、ノーテンキな夏の気分が消え、ちょっとセンチメンタルになって、寂しさとか悲しさという感情が表に出てきますね。一昨年の私のように、クララツェトキン公園の枯葉を見て、ふとキザっぽくヴェルレーヌの詩なんぞを口ずさんで「ひたぶるにうら悲し」などと言ったりするようになるのです。

 しかし、この「悲しさ」は、どこか心の底でそれを楽しんでいるところがあって、本当に悲しいのかどうか、やや不明なところがあります。そこに「楽しみ」がつけ入るスキがあります。その悲しいのか楽しいのかわからない不思議な感情が「懐かしさ」、つまりノスタルジーという感情です。

 

 ノスタルジー、これは老人の特権です。5才の子供が「あのおしゃぶり懐かしいなあ」などと言ったら、ちょっと薄気味悪いでしょ。そうです、これは一定の年月を経験して初めて出てくる感情です。ということは、歳をとるほど、それだけ「懐かしさ」のレパートリーも増えるということになります。もはや燃え滾るような享楽は不可能であっても、今でこそ味わえる享楽というものはあるはずです。いたずらに歳をとったことを嘆くのではなく、逆にその特性を自覚し、それを楽しんでみましょう(すみません、同世代の人だけに呼び掛けてますね)。その意味で秋というのは、うってつけの季節です。これが私の「ノスタルジーのススメ」です。

 

 ついでに私が好きだった「懐かしい」曲を想い出すままに挙げてみましょう。若い人もよろしかったら一度聴いてみて下さい(全部YouTubeで見つかるかどうか知りませんが)。加藤登紀子「西武門節」、内藤やす子「好きにさせて」「女のひとりごと」、トム・ジョーンズ「Delilah」「Love Me Tonight」。しなびたロージンにも、かつてはこんな感情があったのです。

ホント秋ですねえ。

 

 

教授、本日も有難うございました

 

歳をとるほど、それだけ「懐かしさ」のレパートリーも増える

名言ですね!

 

悲しさ+楽しさ=懐かしさ

「ノスタルジーのススメ」

なるほどです・・・。

 

ちょっと違いはありますが、日本も今、昭和平成レトロ(ノスタルジー)ブームでして

(こっちは、懐かしさ+楽しさ 楽しさチョイ多めって感じですかねこのブームは)

昭和レトロって言葉にはピンとくるのですが

平成レトロってのにはイマイチピンとこない昭和世代の私がいます・・・

 

平成元年が20代最前半で平成真っただ中にいたのに・・・

結局、平成って元号自体が最後までピンとこなかったってことでしょうね

(そもそも元号自体ピンときてないですけどね昭和以外は)

私のノスタルジーはやはり昭和のようです・・・

 

教授、またレポートお待ちいたしております。